アニバーサリー賞 受賞作
松田詩依「東京幽世公安局~二人の天狐と狐憑き~」
【講評】
主人公の青年・真澄は、突如現れた妖魔に襲われて負傷する。その際、高位の狐のあやかし・黄金に命を救われ、契約で血を分けられたことで半妖の身となるが……。平凡な青年が、人間とあやかしが協働する組織「幽世(かくりよ)公安局」の面々とともに、事件を解決していくオカルトファンタジー。
応募作品全体の中では女性主人公に較べてやや数が少なかった、男性主人公視点で書かれた作品です。人外の存在の不気味さ、幽世公安局によるテンポのよい集団劇的な面白さ……という二面性でストーリーに緩急が生まれ、六七質さんの既存ビジュアルイメージをよく汲んだ描写も多く見られました。筆力が安定しておりキャラクター配置も絶妙で、物語の完成度の高さも高評価につながりました。
書籍化にあたり、設定や展開に一考の余地がありますが、今後の改稿によって物語がさらに面白くなる可能性を秘めています。その高いポテンシャルに期待して「アニバーサリー賞」に決定いたしました。
★イラストレーター・六七質さんのコメント★
大賞受賞おめでとうございます。
主人公をはじめとしたキャラクターの魅力と妖魔との緊張感のある対決に心をつかまれ、最後まで楽しく読むことができました。
キャラクター達の外見も印象的でイラストに起こしたらどうなるんだろうと想像するだけでワクワクしました。
※受賞作は加筆改稿の上、2022年春ごろの刊行を目指します
矢向亜紀「五番線ホームと端境にて」
【講評】
あの世とこの世の境目の駅と、その駅最寄りの端境の街を舞台とした物語。
ビジュアルイメージに沿った設定が大変よく練られており、筆力も高く、独特の雰囲気があり、安心して読み進めることができました。が、ストーリー展開やキャラクター造形が安定しすぎているせいか、読者の想定外の「驚き」が少なく、物足りなさを感じてしまうのが残念でした。
仍川亜里砂「あやかし謎解き奇譚 ~町を照らす明かりはなぜオレンジ色か?」
【講評】
狭間の世界の「点灯夫」という職業設定が面白い、なぞときファンタジー。
主人公が大学で機械工学を専攻している設定をうまく生かし、メインコンビもかわいらしく、テーマ性が明確な良作です。しかし、せっかくのファンタジー世界観を事件や描写に落とし込めていない部分があり、もったいない印象がありました。
青沼進「あやかし移動都市の美術商~鵺の本音は分かりにくい~」
【講評】
あやかしの住む「龍春街」を舞台とした物語。主人公本人に、他者に言えない大きな秘密や特別な能力があるのが画期的でした。鵺や酒呑童子といったメジャーなあやかしが登場するのも魅力的です。欲をいえば、主人公にもう少し読者が感情移入しやすい要素・描写を加えることができると、より楽しめたかもしれません。
じゅん「癒しのあやかしBAR~あなたのお悩み解決します~」
【講評】
人間だったはずの主人公が、ある日いきなり生えてきたケモ耳と尻尾にパニック、という書き出しで冒頭から読者を引き込んで読ませる作品です。務め先の店(あやかしが集まるバー)を訪れる客の悩みを解決してゆく……という展開は、キャラクター文芸の定番ともいえます。とてもやわらかい文体のため読みやすくもあり、反面、やや物語が起伏に欠ける印象も受けました。
【総評】
最終選考会では、今回の「アニバーサリー賞」受賞作品の装画となる創刊イメージイラストを描いてくださいました、イラストレーター・六七質さんのご意見と、編集部の評価を併せて、受賞作を決定しています。
「アニバーサリー賞」は、通常の小説賞とは趣の異なる企画・応募方法であったにもかかわらず、即戦力として活躍できるようなエンタメ性を重視した投稿作が目立ちました。たくさんのご応募ありがとうございます。また、最終選考に残った5作品は、どれもすでに一定のレベルに達しており、各々の著者の実力を感じさせるものばかりでした。中でも、読者を楽しませようとする設定とストーリー展開、魅力的なキャラクター造形が支持され、「アニバーサリー賞」には、評価者全体一致の意見で「東京幽世公安局 ~二人の天狐と狐憑き~」が選ばれました。
上記受賞作については加筆改稿を行い、2022年春ごろ《小学館文庫キャラブン!》にて刊行予定です。
今回の受賞作品を読んで、小説家を志す多くの方が、今後、自分の可能性を開花させる場所として《小学館文庫キャラブン!》を選んでくださると嬉しいです。
次回もまた楽しい企画や賞を準備中です。
決定しましたら《小学館文庫キャラブン!》公式Twitter(@charabun_sho)にて告知しますので、ぜひご注目ください。
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